錯覚の科学(’14):シラバス概要
■ 講座情報
錯覚の科学(’14)
The Science of Illusion ('14)
【主任講師】
菊池 聡(信州大学教授)
【教材・資料】
・インターネット視聴
■ 講義概要
私たちの脳が認識する世界と、客観的な世界にズレが生じる現象が、「錯覚」である。
心理学の諸研究は、視覚や聴覚といった知覚を中心として、
記憶や思考などさまざまな心的過程で生じる錯覚の特徴やメカニズムを明らかにしてきた。
これらの研究成果を、心理学だけではなく美術史などの多様な分野から紹介し、
錯覚が私たちの日常生活や社会、文化、芸術に与える影響を学際的に検討する。
これらを通して、人が世界を認識する独特の仕組みについて理解を深めていく。
【授業の目標】
私たちの脳が認識する世界と、客観的な世界にズレが生じる現象が、「錯覚」である。
心理学の諸研究は、視覚や聴覚といった知覚を中心として、
記憶や思考などさまざまな心的過程で生じる錯覚の特徴やメカニズムを明らかにしてきた。
これらの研究成果を、心理学だけではなく美術史などの多様な分野から紹介し、
錯覚が私たちの日常生活や社会、文化、芸術に与える影響を学際的に検討する。
これらを通して、人が世界を認識する独特の仕組みについて理解を深めていく。
【講義項目】
- 第1回 錯覚への招待
- 第2回 視覚の錯覚 見ることは考えること
- 第3回 錯視の世界を体験する
- 第4回 視覚の錯覚 知覚心理学と絵画芸術の接点
- 第5回 視覚芸術と錯覚
- 第6回 記憶の錯覚 人の記憶は確実なのか
- 第7回 思考の錯覚と認知バイアス
- 第8回 ヒューリスティックと行動経済学
- 第9回 自己の一貫性と正当化が引き起こす錯覚
- 第10回 身近な情報の錯覚
- 第11回 錯覚の光と影 エンタテイメントと悪質商法
- 第12回 原因と結果をめぐる錯覚 社会的認知
- 第13回 科学的思考と錯覚
- 第14回 自己の錯覚
- 第15回 錯覚とメタ認知 錯覚とよいつきあいを築く
■ 講義内容
各講義回の概要とキーワード
第1回 錯覚への招待
私たちが認識している世界は、客観的な世界と正確に対応しているわけではない。
いわば脳の中で無意識のうちに再構成された世界とも考えられる。
その再構成の過程で、さまざまな「人間らしい」錯覚が生じる。
これから学ぶ錯覚の世界について、基礎的な知識を概観する。
■ 【キーワード】
心理的錯覚、物理的錯覚、認知、感覚、知覚
第2回 視覚の錯覚 見ることは考えること
人の眼はカメラとほぼ同じ仕組みを持っている。
しかし、人はカメラのように、世界を忠実に認識するのではない。
ヘルムホルツが、知覚とは「推論」することだと指摘したように、
知覚体験は高度な認知情報処理の産物なのである。
奥行き知覚や恒常現象は、この知覚の解釈的性格をよく表している。
■ 【キーワード】
カメラアナロジー、知覚的推論、奥行き知覚、線遠近法、恒常現象
第3回 錯視の世界を体験する
視覚で生じるさバラエティ豊かな錯視現象の数々を実際に体験しながら、
人の視知覚が情報を再構成する仕組みを理解する。
■ 【キーワード】
エイムズの部屋、縦断勾配錯視、マッハの本、幾何学錯視、リバースパースペクティブ
第4回 視覚の錯覚 知覚心理学と絵画芸術の接点
錯覚は人の基本的な世界の認識を反映した現象である。
たとえば恒常現象は、対象の同一性を保持し、世界を安定して知覚する働きをする。
こうした錯覚が持つ人間らしい性質は、
線遠近法が学習される以前の子どもの絵や古代の絵画などを通して理解することができる。
■ 【キーワード】
知的写実主義、エジプト絵画、やまと絵遠近法、印象派、現代絵画
第5回 視覚芸術と錯覚
ゼウクシスの逸話からオプ・アートまで、西洋絵画史はまさに錯覚の歴史であるが、
そもそも板や画布という物体を「絵画」とみなすこと自体、錯覚の最たるものかもしれない。
本講義ではとくに遠近法の展開に着目しつつ、美術における錯覚とその機能について考察する。
■ 【キーワード】
写実、ルネサンス、パースペクティヴ、トロンプルイユ
第6回 記憶の錯覚 人の記憶は確実なのか
想起された記憶とは過去の情報が再生されたと言うよりも、
さまざまな記憶手がかりをもとに再構成されるものととらえられる。
そのため、実際には存在しなかった事項が、
あたかも真実の記憶のように思い出される虚偽記憶という錯覚が生じる。
■ 【キーワード】
虚偽記憶、ソースモニタリング、目撃者証言
第7回 思考の錯覚と認知バイアス
客観的に正しく考えているつもりでも、人は誤った思い込みに陥ることがある。
そこには、私たちの情報処理に生じる認知バイアスが働いている。
人の持つバイアスが、どのような思考の錯覚をもたらすのかを身近な例から考える。
■ 【キーワード】
錯誤相関、確証バイアス、迷信的思考
第8回 ヒューリスティックと行動経済学
私たちの日常的な思考は、論理的な厳密さよりも、
効率性と一貫性を優先した簡便な方法で行われる。
こうした方法はヒューリスティックと呼ばれ、身の回りで広く見ることができる。
そこで起こる、特有の思考の錯覚を考察する。
■ 【キーワード】
ヒューリスティック、代表性、利用可能性、アンカリングと調整、
プロスペクト理論
第9回 自己の一貫性と正当化が引き起こす錯覚
心理学の古典的な理論として知られる認知的不協和理論は、
一貫性への動機づけが無意識のうちに認知や行動を変容させる仕組みを体系的に説明している。
その理論が応用できる範囲は、
身近な思い込みからマインドコントロール技術に至るまで非常に広い。
■ 【キーワード】
認知的不協和、入会儀礼効果、マインドコントロール、
フット・イン・ザ・ドア・テクニック
第10回 身近な情報の錯覚
私たちは、身の回りの出来事からさまざまな情報を読み取って解釈し、
判断や意思決定の材料としている。
その際に、情報が持つ統計的な性質を見落とすと、
そこに誤った因果関係を発見してしまうことがある。
■ 【キーワード】
平均への回帰の錯誤、前後論法、同時発生の原因、サンプリングバイアス
第11回 錯覚の光と影 エンタテイメントと悪質商法
「注意」の性質を利用した錯覚は、
マジックをはじめとしたエンタテイメントに利用されるのと同時に、
時には詐欺や悪質商法の手法として使われる。
これらの手法に共通する注意と思考の錯覚を解き明かしていく。
■ 【キーワード】
チェンジブラインドネス、注意、復帰抑制、共同注意、
ミスディレクション、フォース
第12回 原因と結果をめぐる錯覚 社会的認知
ものごとの原因はなんであるかを考える原因帰属の推論は、
人の思考の中でも重要な過程である。
この帰属推論で生じるいくつかのバイアスが対人認知の歪みを引き起こすことを理解し、
よりよい帰属推論を行うためのポイントを考える。
■ 【キーワード】
原因帰属、分散分析モデル、基本的帰属錯誤、行為者観察者効果、
内集団バイアス、情動二要因理論
第13回 科学的思考と錯覚
科学としての要件を備えていなのに、科学的であるかのように装っている主張は、
疑似科学と呼ばれる。
そこには、科学的概念やデータ解釈の錯覚が生じている。
血液型性格学など、現代の日本になじみの深い疑似科学をとりあげ、疑似科学の錯覚を明らかにする。
■ 【キーワード】
血液型性格判断、バーナム効果、疑似科学、境界設定問題、反証可能性、
アドホック仮説、立証責任の転嫁
第14回 自己の錯覚
健康な精神の持ち主は、現実を自分に有利に歪めて認識する傾向を持っており、
これはポジティブイリュージョンと呼ばれる。
こうした自己奉仕的な認知の歪みについて、その特徴と心理的適応に果たす意味を解説する。
■ 【キーワード】
抑うつの現実主義、ポジティブ・イリュージョン、平均以上効果、
制御幻想、非現実的な楽観主義
第15回 錯覚とメタ認知 錯覚とよいつきあいを築く
自分自身の認知を適切にモニターし、
さらにそれを制御しようとする過程は、メタ認知と呼ばれる。
このメタ認知は、論理的で偏りのない良質の思考であるクリティカル・シンキングを実現するために、
重要な概念となる。
本科目で学んだ錯覚についてのメタ認知を、
今後の生活や社会にどう活かすべきかを総括的にふりかえる。
■ 【キーワード】
認知的経済性の原理、メタ認知、クリティカルシンキング
以上