新しい言語学(’18)【人間と文化 導入科目】シラバス概要
■ 講座情報
新しい言語学(’18) -心理と社会から見る人間の学-
New Trends in Linguistics ('18):
Humanics with Psychological and Sociological Perspectives
【主任講師】
滝浦 真人(放送大学教授)
【教材・資料】
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■ 講義概要
語学の中でも比較的最近発展してきた領域と方法論を取り上げて講義する。
なかでも、言語に対して心理や社会の観点からアプローチする認知言語学、
言語習得論、談話分析、社会言語学に着目する。
それらは、心理や社会という観点を通して人間にとって言語が
どのような位置にあるのかを明らかにしてくれるだろう。
【授業の目標】
扱われる方法論ごとの観点の取り方と典型的トピック
および成果が理解できるようになること。
【講義項目】
- 第1回 なぜ「新しい言語学」か? -新旧の違い-
- 第2回 認知言語学① -事態の捉え方と言語表現-
- 第3回 認知言語学② -比喩-
- 第4回 認知言語学③ -カテゴリー化、多義語と意味変化、文法化-
- 第5回 認知言語学④ -認知言語学と命名論-
- 第6回 言語習得論① -母語の習得と臨界期-
- 第7回 言語習得論② -概念の獲得と語意学習-
- 第8回 言語習得論③ -多言語環境における言語習得-
- 第9回 語用論① -言外の意味のコミュニケーション-
- 第10回 語用論② -意味論から語用論へ-
- 第11回 語用論③ -日本語の語用論-
- 第12回 談話分析 -話しことばの連なりから見えてくること-
- 第13回 社会言語学① -社会におけることばのバリエーション-
- 第14回 社会言語学② -ことばの変化、ことばへの意識-
- 第15回 心理と社会から見る人間の学
■ 講義内容
各講義回の概要とキーワード
第1回 なぜ「新しい言語学」か? -新旧の違い-
科目名の「新しい言語学」が
言語をどのような角度から捉えようとする立場なのかを理解し、
これからの学習の方向性を見定める。
とりわけ、「旧」言語学の目指したものが、
人間とその文化に普遍的に備わっている仕組みであったことを確認し、
それに対する見直しの機運の中で「新しい言語学」が
提唱されてきたことを捉えたい。
■ 【キーワード】
構造(主義)、普遍文法、心理的能力、社会的能力
第2回 認知言語学① -事態の捉え方と言語表現-
認知言語学の基本的な考え方を把握したうえで、
事態の認知が言語表現にどのように反映しているかを理解する。
さらに言葉の彩がどのように発生するか、
日本語と英語の事態把握の違いはどのようなものか具体例を通して学ぶ。
■ 【キーワード】
視点、図と地、格助詞、集合的認知と離散的認知、主体化と客体化
第3回 認知言語学② -比喩-
比喩が何故認知言語学において重要なのか理解したうえで、
シミリー(直喩)、メタファー(隠喩)、メトニミー(換喩)、
シネクドキー(提喩)の4タイプの比喩が
それぞれどのようなものか実例を通して学ぶ。
■ 【キーワード】
比喩、シミリー、メタファー、メトニミー、シネクドキー
第4回 認知言語学③ -カテゴリー化、多義語と意味変化、文法化-
まず、事態・事物をグループ分けして
言語表現に表すカテゴリー化の働きを把握する。
次いで、カテゴリーの拡張には比喩が関わることを把握し、
その一環として時間を表す表現が
どのように具体的なもので表されているか理解する。
最後に名詞や動詞から文法的な機能を持つ語へと
品詞カテゴリーが変わる現象である文法化とは
どのようなものか実例を通して学ぶ。
■ 【キーワード】
カテゴリー化、プロトタイプ、類別詞、多義語、
意味変化、文法化
第5回 認知言語学④ -認知言語学と命名論-
認知言語学の観点から命名論の概略を解説する。
はじめに、命名論における表示性と表現性という概念を説明する。
さらに、「命名と認知の対応性仮説」、「再命名」について解説した後、
命名と比喩の関係について学ぶ。
第6回 言語習得論① -母語の習得と臨界期-
第一言語習得のメカニズムの主要な概念を学習する。
習得時期が乳児期に集中する音韻体系の習得と、
成人になっても習得が継続する語彙意味の習得の特徴を知り、
その差異や共通点、および関係性について考察する。
■ 【キーワード】
臨界期、敏感期、統計的学習、社会的学習
第7回 言語習得論② -概念の獲得と語意学習-
語彙の中には、抽象的な意味を持つものがある。
たとえば、目に見えない感情や態度などを表す語彙がそうである。
この回では、このような語彙の意味習得に焦点を当て、
概念の獲得と語意学習の関係を概観する。
また母親との日常的な会話の質や量が、
語意学習に影響を与えることについても考察する。
語彙の習得は、
産出と理解の両方の側面から検討が必要であることも確認する。
■ 【キーワード】
語意、概念、感情、態度、母子会話、文化差
第8回 言語習得論③ -多言語環境における言語習得-
生まれてすぐに二つ以上の言語が使われている
多言語環境で育つ子どもの言語発達について考える。
グローバル化に伴い、
多言語環境で育つ子どもは世界規模で増加しているが、
我が国でも定住外国人家庭の子弟は増加傾向にある。
そのような子どもたちの幼児期の言語発達について概観するとともに、
前回でも見てきた言語の発達と感情や態度といった
心の理解との関係について考察する。
また語彙の獲得言語発達に遅れが生じた場合に
どのような問題が起こるかについても検討する。
■ 【キーワード】
語用論の習得
第9回 語用論① -言外の意味のコミュニケーション-
語用論が何を対象として何を解明しようとするかを、
まず大づかみに理解したい。
とりわけ、語用論が言葉の「意味」よりもそれを発する
人の「意図」を対象とすること、
それゆえ、語用論は必ず「言外の意味」を扱うものであることを押さえる。
その理論的支柱となったグライスの協調の原理と
4つの原則についても正しく理解したい。
■ 【キーワード】
多言語環境、バイリンガル、第二言語習得、メタ表象、心の理論、文法
第10回 語用論② -意味論から語用論へ-
語用論のトピックを紹介しながら解説する。
まず、語用論が意味論から分かれる形で登場した経緯を見る。
語用論が、発話する「人」を取り込んだということの意味を、
具体的な学問的展開の中で考える。
■ 【キーワード】
意味論、発話者の意味、ダイクシス、前提、言語行為
第11回 語用論③ -日本語の語用論-
日本語で日々生活することに、
語用論はどのように関わっているだろうか?
具体的な例を通して、日本語における語用論的問題を眺めたい。
助動詞「た」の使い方に表れる様々な語用論的側面を見た後、
対人配慮(ポライトネス)の語用論を、
敬語 対 タメ語の機能差などにも触れながら考える。
■ 【キーワード】
「た」、効率と配慮、遠近、敬語 対 タメ語
第12回 談話分析 -話しことばの連なりから見えてくること-
言語研究における談話とは何か、
談話を分析する目的は何かを考える。
<話す>と<書く>の違いについて整理し、
<話す>ことの特徴をふまえながら、
談話の構造をとらえる観点や、談話にあらわれる諸現象を確認する。
また、談話の現象の1つである
くり返しを通してことばによる相互行為を分析する。
■ 【キーワード】
談話構造、談話の単位、ターン、隣接ペア、くり返し
第13回 社会言語学① -社会におけることばのバリエーション-
一般言語学が言語の標準的な体系を明らかにするのに対して、
社会言語学は実際の話し手たちのことばのバリエーションや
使い分けに着目する学問分野である。
まず、話し手の属性(出身地域、世代、性別など)による
ことばの違いについて学び、
ことばのバリエーションと社会の関わりを示すトピックについて
考えていく。
■ 【キーワード】
属性、集団語、地域差、男女差、世代差
第14回 社会言語学② -ことばの変化、ことばへの意識-
言語はなぜ変化するのか。
ここでは主に社会的な要因を取り上げ、
成長や加齢に伴って起こる個人内のことばの変化についても考える。
また、言語使用に影響を与える話し手たちの意識の各種を紹介し、
言語意識が言語変化を起こす例について見ていく。
■ 【キーワード】
言語変化、言語意識、評価、志向、規範
第15回 心理と社会から見る人間の学
これまでを振り返って、「新しい言語学」の成果を俯瞰する。
言語には人間の事態把握の仕方が反映されていること(認知言語学)、
言語習得は心理的・社会的諸能力の発達と相まって進行する
複雑なプロセスであること、
人がちゃんと話さなかったり
馬鹿丁寧に話したりすることには理由があること(語用論)、
会話は参加者同士の人間関係をよく映すものであること(談話分析)、
人々の帰属意識や役割意識は言葉の使い方の差異として
表れること(社会言語学)、
等々をあらためて確認する。
■ 【キーワード】
心理と社会から見る人間の学