経営情報学入門 (’19):シラバス概要
■ 講座情報
経営情報学入門(’19)
Introduction to Management Information Systems Study ('19)
【主任講師】
木嶋 恭一(東京工業大学名誉教授)
岸 眞理子(法政大学教授)
【教材・資料】
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■ 講義概要
経営情報学は、人と組織と技術を経営の視点から包括的に研究する学問領域である。
ディジタル化の進展により情報技術がめざましい発展を遂げている現在、
改めて情報技術と人間系との関わりが問われている。
情報技術は企業組織のイノベーション、成長の原動力として、
知識社会におけるビジネスの基礎ではあるが、
情報技術利活用の基礎となる人間の知性と分析的な能力があってこそ
新たな価値を創出することができる。
その意味で、情報技術の実際と可能性を踏まえた上で、
人間系、機械系をシームレスに繋いだ経営情報の体系化が求められている。
この科目では、経営情報学の基礎となる理論や概念について学ぶとともに、
優れた経営情報システムの事例研究にも言及して、
企業組織の有効な情報利活用について理論的・実践的に学習する。
さらに、企業や社会を取り巻く情報技術環境の急速な変化と
それがもたらすインパクトについても理解する。
【授業の目標】
企業組織が、
情報技術と情報自身をどのように経営に有効に利活用するのかについて学習する。
まず、経営情報学の基礎となる理論や概念について理解し、
企業組織の有効な情報利活用について理論的・実践的の両局面から学習する。
さらに、企業や社会を取り巻く情報技術環境の急速な変化と
それがもたらすインパクトについても理解する。
【講義項目】
- 第1回 経営情報学という学問領域
- 第2回 組織と情報処理
- 第3回 組織の意思決定と問題解決
- 第4回 問題解決とシステム思考
- 第5回 組織のコミュニケーション
- 第6回 組織における知識の創造と活用
- 第7回 経営情報システムの基礎
- 第8回 経営情報システムの進展
- 第9回 経営情報システムの開発と管理
- 第10回 経営情報におけるサイバーセキュリティ
- 第11回 経営戦略と情報活用
- 第12回 ネットビジネスの展開
- 第13回 情報活用と社会
- 第14回 人と技術の融合
- 第15回 経営情報学入門総括
■ 講義内容
各講義回の概要とキーワード
第1回 経営情報学という学問領域
ICT(情報技術)が飛躍的に発展しつつある今日、
企業をはじめ様々な組織において、
多様で大量な情報を効果的・効率的に活かすことは、
経営の根幹に関わる重要な活動である。
この回では、経営の視点から、
人と技術(特に情報技術)による情報処理を包括的に研究する
学問領域である経営情報学の概要と、
その基本的な枠組み、研究の方法論について理解する。
次いで、各回の経営情報学における位置づけを理解し、
経営情報学の全体像を把握する。
■ 【キーワード】
経営情報学、情報処理システム、目標追求システム・モデル、
組織のエコシステム・モデル、トランスレーショナル・アプローチ
第2回 組織と情報処理
経営情報学では、組織を、広い意味での情報処理システムとして捉える。
そこでは、「組織」の「情報処理」が中心的課題となる。
この回では、まず、組織が、なぜ、どのように環境からの情報を処理しているのか、
また処理すべきなのかを理解するための理論的根拠を、
経営学の中心的学問領域に求める。
そして、組織が1つの情報処理システムとして機能していることを学ぶ。
さらに、第1回で検討した「業務プロセス」を、広義の「技術」との関連から考察する。
一方で、組織と環境とは明確な境界によって区分されるものではなく、
組織は、情報処理活動を通じて「組織化」のプロセスを進行させ、
環境を自ら創造していく動態的なものであるという側面も理解する。
■ 【キーワード】
組織の情報処理モデル、不確実性、多義性、情報処理システムとしての組織、
技術、組織と組織化
第3回 組織の意思決定と問題解決
組織の経営とそれに関わる情報(経営情報)の役割について学習し、
経営活動の本質が問題解決、特に意思決定であることを理解する。
具体的には、問題解決及び意思決定の概念とそのプロセスについて学び、
そこでの情報システムの重要性について理解する。
■ 【キーワード】
問題解決と意思決定、意思決定のプロセスモデル、データ、情報、知識、
情報システムと問題解決プロセス
第4回 問題解決とシステム思考
経営における問題解決に有用なシステム思考について理解する。
システム思考は、「物事・対象をシステムとして捉える」ものの見方である。
まず、「システム」とは何かを理解し、システム思考の特徴について学習する。
次いで、応用システム思考について理解し、
中でもハードシステム思考、ソフトシステム思考について学習する。
両者は、相互補完的で、
問題状況に応じて適切に選択して適用すべき思考の枠組みである。
■ 【キーワード】
組織経営、問題解決、システム思考
第5回 組織のコミュニケーション
この回では、
組織のコミュニケーションを検討する際に不可欠な理論や概念について学習する。
まず、基礎となるコミュニケーション・モデルについて理解する。
次に、ICT(情報技術)によるコミュニケーションの技術的特性、
ICTによるコミュニケーションの分類とその組織的効果について検討する。
さらに、組織がリレーションシップを構築するコミュニケーションを実行する際に
考慮すべきディジタル・メディアの活用と、メディア能力としての
メディア・リッチネスについて取り上げる。
■ 【キーワード】
コミュニケーション・モデル、ICTによるコミュニケーション、
トランザクション的コミュニケーション、リレーションシップ的コミュニケーション、
メディア・リッチネス、ディジタル・メディアの組織的活用
第6回 組織における知識の創造と活用
経営情報学では、これまで狭義の情報処理が中心的課題であった。
近年ではこれに加えて、
組織における「知識の創造と活用」が新たな課題となってきており、
経営情報学の射程が広義の情報処理へと拡大してきた。
この回では、
この新たな課題に取り組む際に助けとなる事項についての理解を深めることである。
学習のポイントは次の2点である。
(1)なぜ知識の創造と活用が課題となってきたのか
(2)どうすれば知識の創造と活用を促進できるのか
■ 【キーワード】
ナレッジマネジメント(KM)、情報処理型組織と知識創造型組織、
組織的知識創造理論、場の創設と活性化、知識資産の評価と活用、
リーダーシップの発揮と育成、
オープンイノベーション、クラウドソーシング
第7回 経営情報システムの基礎
経営情報システムは組織が行っているビジネス取引のモノとカネと情報の流れを
調整する働きをしていることを理解する。
より具体的に、企業が製品とサービスを社会へ提供して成長を続けるためには、
需要変動と提供の速度を整合させるための、
全社にわたる在庫管理の組織を作り上げその性能を向上させ続けるという
目標を追求している点を理解する。
ポイントは、モノの在庫ばかりに目を奪われることなく、
取引の要求を表すデータを在庫として認識し、
サラサラに流すような仕組みを作る必要性があることを理解することである。
そして、企業の理想的な提供能力を描くために必要となるリトルの公式を学習する。
引き続いて基幹業務システムやカンバン生産方式の意義を統合して理解することで、
IoTやビッグデータを用いる時代になった場合に改善する方向性や
新たなビジネス方法の可能性を論じることができるようになる。
■ 【キーワード】
伝票、事務の機械化、オペレーション(実務作業)、ビジネスプロセス、
情報システム(とデータモデル)、リトルの公式、モノと情報の流れを整える
第8回 経営情報システムの進展
モノの生産において欧米ではMRP(エム・アール・ピー)という
無駄のない多品種生産の仕組みが考案された。
日本ではリーン生産方式が生まれた。
それらの仕組みと違いを学習する。
さらに、MRPとリーン方式の統合を適用発展させていくことが
大きな可能性をもたらすことを理解する。
■ 【キーワード】
プロセス全体の見える化の進展、MIS-DSS-MRP-ERP-クラウド、
EDI、SCMとオープン化とeMP、MA、プラットフォーム、
経営戦略の情報の構成、モノと情報の流れを整える
第9回 経営情報システムの開発と管理
この回では、経営情報システムを企画、構築、運用するために
必要となる知識と考え方を理解することを目標とする。
経営情報システムを企画・設計し、開発、テスト、運用、保守にいたる
一連のプロセスと情報化投資をする際の評価について把握する。
情報システムの開発にあたっては、いかに「良く」作るかをめざして、
様々な方法論が提起、実践されてきた。
それらの方法論の違いと環境変化にともなう変遷についても概観する。
■ 【キーワード】
開発方法論、
システム開発ライフサイクル(SDLC:Systems Development Life Cycle)、
ウォーターフォール・モデル、反復型モデル、プロジェクト管理、情報化投資
第10回 経営情報におけるサイバーセキュリティ
「サイバーセキュリティ」を企業経営の基本的な立場から述べる。
組織が保有する情報資産を安全に利活用するための基本的な考え方、
法律、経営に求められる取り組みを概説する。
近年、サイバーセキュリティの重要性が高まる中、
リスクを抑えるためのガイドラインが公的機関等によって提供されている。
その概要とリスクに関する基本的な考え方、関連する法律を概説する。
■ 【キーワード】
セキュリティ・ポリシー、リスク、インシデント、
公開鍵暗号方式、共通鍵暗号方式、認証、プライバシィ
第11回 経営戦略と情報活用
この回では、ICT(情報技術)の発達にともない
企業における情報活用がどのように変化してきたのかについて
経営戦略との関係を中心に概観する。
まず、経営戦略論の学説展開について俯瞰し、
競争戦略論の流れを受けて登場した戦略的情報システム(SIS)について
実例をもとに理解する。
次に、資源ベースビューやケイパビリティ論を踏まえて、
ビジネスプロセスの革新とICTの戦略的活用について考察し、
ICT と人間が相互に補完しあうことで
情報システムの戦略的活用が機能することを学習する。
■ 【キーワード】
経営戦略論、ポジショニングビュー、資源ベースビュー、
戦略的情報システム(SIS)、ビジネスプロセス、BPR
第12回 ネットビジネスの展開
ICT(情報技術)の発達とその社会への浸透によって、
企業の経営管理手法の多くの側面に影響を与えてきた。
「ネットビジネス」とは、
情報ネットワークの登場とその利用拡大によって誕生した新しいビジネスの形態を指す。
まずその基本的な理解のために、
ビジネスモデルを構成する主要な要因を取り上げて解説する。
今後登場することが期待される新しいネットビジネスは、
情報通信技術分野の要素技術の進展によってもたらされるため、
現在進展しつつある技術分野のもとで新しいビジネスモデルの可能性について学習する。
■ 【キーワード】
ビジネスモデル、クライアント・サーバ型システム、電子商取引、情報の源泉、
ビッグデータの活用、人工知能の活用
第13回 情報活用と社会
この回では企業などの組織の活動が
情報処理技術の発展やインターネットによってどのように変化し、
さらに人々のコミュニケーション環境の場がマスメディアから
パーソナルメディアへと拡大するなど、
新しい現実がこの四半世紀の間にどのように構築されてきたかを学習する。
次にそれが社会に如何なるインパクトを与え、
結果として経営上の課題、産業構造上の課題、社会や働き方にとっての課題、
倫理的な課題など様々な課題が生じてきているさまについて学習する。
その上でどのような新しいマネジメント上の課題が出現したか、
及び新たなビジネスモデルが我々の暮らしや働き方に何をもたらすかを理解する。
■ 【キーワード】
第4次産業革命、インターネット、ロックイン、プラットフォーム、
最適化、情報倫理
第14回 人と技術の融合
この回では今日の巨大な社会技術複合体としてのネットワーク社会が
我々の生活や働き方あるいは産業構造にどのような影響をもたらすかについて、
前回の議論を受けさらに進んだ理解を試みる。
この四半世紀インターネットを利活用したビジネス領域では、
巨大プラットフォーム企業の出現など企業と消費者の関係が大きく変化した。
IoT(Internet of Things:もののインターネット)や人工知能や3Dプリンターなどの
技術はさらに大きな変化を我々の社会にもたらし、
多様な財やサービスの生成プロセスがダウンサイジングされ、
それらが疎に結合したビジネス生態系が構築される可能性も見えつつある。
この社会技術複合体のあり方を学習し理解することが課題となる。
■ 【キーワード】
AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)、疎結合、クラウドファンディング
第15回 経営情報学入門総括
この回では、この科目の総括として、
初学者が経営情報学を理解する上で必要となる接近方法を再確認する。
そのなかで、これまで学習してきた各回を振り返り、
これらの位置づけを経営情報学の全体像のなかで把握することで、
経営情報学入門の総まとめを行う。
最後に、今日のICT(情報技術)社会において想定される、
今後の動向についても考察する。
■ 【キーワード】
経営情報学、システム論的アプローチ、トランスレーショナル・アプローチ、
イノベーション、価値創造、技術と組織の共進化
以上